2014/09/19

いつどこをひらいてもいいんだよ

近頃は、
いつどこをひらいてもいいんだよ 
言ってくれているような本を読むことが多い。

詩集はたまたま開いたところを読むし、
絵本は絵や写真を気ままに眺めて
そこにあることばをモグモグ反芻してみたり、
短編小説は気になるタイトルを一話だけと、
かなりいい加減に楽しんでいる。

それで、ときどきそこにわたしなりの、
特別とか本物見つけてゾクっとするのだ。

この前も突然ポッカリと時間が空いて、
地下鉄の駅ナカにある喫茶店で、たまたま
古本で買って持っていた「アメリカ名詩選」を開いた。

たまたまT.S.エリオットのページで、
「そういえば高校の生物の先生が、
この人を紹介してくれたな」とか思い出しつつ、
何気なく読んでゾクっとした・・

都心の地下鉄の喫茶店で珈琲を飲んでいるわたしのあたまの中で、
"街の角では馬車馬がただ一頭、湯気を吐き吐き足踏みをする"のだ。

その後は、普段通りの日常にもどって、
ふつうに人に会ったりするのだけど、
さっきまでの気分も世界も、読む前とは全然違う。
そういうことが起きるのが、面白くてほんとうに好きだ

いつか、こんどは夏の終わりの夕暮れじゃなくて、
詩と同じような冬の日の午後六時に同じページを
もう一度、開くことがあるかもしれない。
そう期待して、それを忘れてしまうのもまた面白い

何度も開いたり、眺めたりしたくなる本はいいな。

そういう本を、少しずつ間をあけながら、
生活のなかで繰り返し読みたい。
食べるみたいに。

そんなこと思います。


Preludes T.S.Eliot

I

The winter evening settles down
With smell of steaks in passageways.
Six o'clock.
The burnt-out ends of smoky days.
And now a gusty shower wraps
The grimy scraps
Of withered leaves about your feet
And newspapers from vacant lots;
The showers beat
On broken blinds and chimney-pots,
And at the corner of the street
A lonely cab-horse steams and stamps.

And then the lighting go the lamps.



前奏曲集 T.S.エリオット

I

冬の日暮れが腰をすえる、
路地うらのステーキの匂いとともに。
六時です。
煙たい日々の燃えのこり。
それから吹き降りのにわか雨に、
煤まみれの枯葉のくずや、
空き地からきた新聞紙が
しつこく足にまといつく。
雨脚がこわれたブラインドや、
煙突の先に叩きつけ、
街の角では馬車馬がただ一頭、
湯気を吐き吐き足踏みをする。

それから街灯に灯が入る。


岩波文庫「アメリカ名詩選」亀井俊介・川本皓嗣編より
こちらがそのときの、T.S.エリオットの詩の一部です。
詩 "前奏曲集" は I〜IVの4つに分かれています。
II〜IVと、つづきが気になる方はぜひこちらの本で。
装画はアンドリュー・ワイエスの "クリスティーナの世界" 、
とてもかっこいい本です。下の注釈もおすすめ。
注釈で、この詩が学生エリオットの作だと知り、
情景がいっそう胸にせまるのでした。